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「君のことは、李から聞く前から知っていたよ」
 君はココアをテーブルに置いて、私を見た。
 どうやら、君も、そのことは知っていたようだ。
 クロモリ君が私の前にコーヒーを置いた。眠気覚ましにはちょうどいい。私はそれを一気に飲んだ。
「やはり熱いな・・・」
「・・・姉、ですか」
 彼の目を見ると、なんでも知っているように思えた。
 そんなに年が離れていないせいもあるだろう。私と君は一歳差だ。
「そう、君の姉のことだ」
 私は立ち上がり、君の前に立った。
 キョトンとした面持ちで私を見る。
「君の姉にはすまないことをしたと思っている。どうか、私を許してくれ」
「だっ、旦那様・・・!?」
 ティーポットを持ってきたクロモリ君がギョッとした目で私をみた。
 ―私が人に、彼に頭を下げるなんて天地がひっくりかえってもありえない光景だったからだろう。
「・・・なんで、謝るんですか」
 君は私に微笑みかけた。私はもう一度、頭を下げ直して椅子に座る。
「謝っても仕方のないことはわかっている。でも、君の姉の死を早まらせたのは私だ」
「俺は、小さいころに姉は死んだと聞かされてました」
 今度は私が驚く番だった。君はいつもと変わらぬ表情で話した。
 その間にまた、コーヒーが注がれる。今度は一滴も飲まなかったが。
「俺の姉は病弱で、入院しっぱなしで、俺が見舞いに行っても面会はできなかった。俺が・・・10歳、ぐらいのときか、姉は死んだと知らされた。死んだ後も、顔を見ることはできなかった。でも・・・」
 君は私をじっと見つめる。私もこたえるように顔を見る。
 片方の目が、姉と同じ色だった。黄色くて、宝石のようにキラキラと光っていた。彼女はいつも、そんな目で私を見ていた。輝いていて、まるで未来を見据えていたように。
「姉は生きていたんですね・・・俺にとっては死んだも同然だったんです。だから、謝ることなんてないですし、姉と会って、姉を幸せにしてくれたなら、むしろ、俺がお礼を言う側です」
 君は一口残っていたココアを飲んだ。クロモリ君が注ぎにきたが、軽くクロモリ君を抑えた。
「俺はもう寝ます。李が一人ですし・・・。いいんですか、俺で」
「ああ」
 冷めたコーヒーを飲みほして、同時に立ち上がる。
 クロモリ君はそそくさとテーブルの上のカップを持ち、キッチンへと向かった。
「・・・お義兄さん、ありがとうございます」
「まだ、早いぞ・・・篭氷君」
「篭籠です」
 君はぺこりと一礼して、部屋を出て行った。
 私はもう一度テーブルに座る。コーヒーと頼んだのは私だが・・・眠る気がなかったのだろうか。
「クロモリ君、一杯、相手してくれないか」
 そう言うと用意していましたよ、と言うようにコップを酒瓶を持ってくる。
 二つのコップにお酒が注がれる。それを一気に飲むと、体が温かくなった。
「もう一杯だ」
「やけ酒は控えてくださいよ」
「いいじゃないか・・・。李ももうすぐ飲めるんだな。楽しみだ」
 まるで父親ですね。とクロモリ君に笑われてしまった。
 父親のようだった。確かに、私は李の父親になりたかったのかもしれない。
「今夜は月が綺麗だ」
「そうですね」
 一際輝いている月はまるで、彼女の瞳のようだった。
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